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大分県・豊後大野市で花卉業を営む十時花園さんとは、昨年日本茜や藍の栽培に適した土づくりについて検索していた過程でご縁を頂きました。

十時さんは、絶滅危惧種であり栽培が非常に難しい「紫草」を21年間育てている方です。

「こきいろ」「紫根色」という色名が残っていますが、これは全て「紫草」の根で染めた紫のことです。

紫草は飛鳥時代から染料植物として知られ、「冠位十二階」に最高位の者が着用すると定められた高貴な色でした。

古くは九州一円が紫草の一大生産地であり、大宰府を通じて平城京へと運ばれていました。

しかしあまりの栽培の難しさや、科学染料の普及により、現在では自生種はほとんど絶え、僅かに薬草園や染織家の手によって守られているのみとなっています。

 

その紫草を、わずかお猪口一杯分の種から発芽させ、栽培を実現された方がいました。

大分県竹田市在住だった中川藤義氏です。

中川さんは、日本料理の専門家として大分県にて料亭を経営されていましたが、紫草に魅せられて、私財を投じて栽培研究に没頭されました。

その努力が実り、2002年「東大寺大仏開眼1250年慶讃大法要」において奉納された「紫根」で染められた紫衣の原材料として、紫根600株を提供されることとなりました。

中川さんは誠に惜しまれながら2020年に逝去されました。

 

十時さんにお尋ねすると、「紫を持って来たのは、私じゃなくて中川君なんですよ。中川君が種から育てて、土地を開墾して。そうして紫が広がったんです。去年亡くなりました。私は一人になってしまって、もう紫もやめようと思ってたんです。それでも、日本の色を護る偉業を成し遂げた彼のことを、誰も知らない。私は彼の伝記を出したいというのが夢なんです」という想いを打ち明けてくれました。

 

その想いに胸打たれ、私も染織の道を歩む者として、何とか紫草を継承していきたい、何かできることはないかとの思いで、中川さんの功績を後世に伝える本を制作し、栽培方法と染織技法を継承していくことを主眼とした「紫草蘇生プロジェクト」を立ち上げました。

文化財保存や修復において光が当たるのは、完成に近いところで仕事をする人々ですが、原材料を生産する人が居なければ、保存も復元も不可能になってしまうからです。

「紫草蘇生プロジェクト」では、元となる生産者にスポットを当て、九州の歴史と大分の地域性を盛り込んだ展覧会を開催することによって、今後の文化財保存の為の道筋を照らしたいと思っています。

 

―――

 

紫草と大宰府についての取材調査過程で、九州歴史資料館・学芸調査室長・松川博一先生に出会いました。深遠な紫草を巡る歴史の知識・ご研究を拝聴し、松川先生以上の方はいらっしゃらないと、この度展覧会にてご講演をいただきました。

演題は「大宰府と紫草(むらさき) -木簡と正倉院文書から-」です。

大宰府を中心に、九州で紫草栽培がシステム化されていた歴史を紐解いて頂きました。

九州歴史資料館に展示された木簡(紫草を運ぶ際に書かれた荷札)を私も拝見しましたが、福岡や大分、鹿児島で大きさも木の種類も違っており、とても興味深い資料でした。

※当日松川先生にご用意いただいたレジュメ13Pも、講演会記録ご購入の皆様にはPDFをお送りさせて頂きます。

 

講演会では、太宰府市文化ふれあい館・学芸員・井上理香先生に特別なご協力を賜り、ふれあい館所蔵の紫の朝服を身に纏った「大宰帥(だざいのそち)」像に大分県までご出張願いました。

過去大宰府の長官を勤めた菅原道真や大伴旅人も袖を通しただろう、帥だけが着られた紫に思いを馳せながらの時間となりました。

 

本プロジェクトのうちの一つ、講演会と紫の歴史文化の研究成果を発表する展覧会は、大分県のギャラリーで毎年12月、3年に渡って開催を続ける予定です。会場としてご協力いただいているのは、大分県でアートの力で地域の活性化を行っている、「創造空間カメノス」さんです。

カメノスさんの森には実際に紫草を植えさせて頂いています。プロジェクトメンバー皆と、いつか紫草を山根、野生に還すことが出来ないかと夢想しております。

 

紫についての研究調査は半年前に始めたばかりですが、染料植物を染める中でも紫は別格だと感じます。

この特別な美しい植物を、後世に伝えていく契機となりましたら幸いです。

 

ーーー

 

◆紫草蘇生プロジェクト:書籍|『紫の種を蒔く』

 

展覧会開催を記念して、中川藤義氏の功績を後世に伝える為に制作しました。

 

・B5

・40頁

 

(目次)

弔辞       十時 成也

紫草の生産と貢進 松川 博一

紫の火生土    野原 佳代

道        渡邊 航

 

・発行:2021年12月16日

・制作:紫草蘇生プロジェクト

・写真・編著:渡邊 航

・装丁:野原 佳代

・発行所:株式会社 月虹舎

 

 

【 こちらの講演会記録も合わせてご高覧ください 】

 

◆紫草蘇生プロジェクト:2021年12月16日~19日 会期記録

 

〇講演会:1時間20

 

【登壇】

九州歴史資料館・学芸調査室長・松川博一先生

「大宰府と紫草(むらさき) -木簡と正倉院文書から-

PDFレジュメダウンロード版付き

 

太宰府市文化ふれあい館・学芸員・井上理香先生

「大宰帥について解説」

 

〇座談会:57

 

【登壇】

十時花園・十時成也氏

フリーライター・渡邊航氏(採花譜プロジェクト編著)

京きもの蓮佳・野原佳代

 

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なお、本プロジェクトの収益の一部を、「鎮守の森のプロジェクト」に寄付致します。

「鎮守の森のプロジェクト」は、地震による津波や火災から人命・建物家屋・町を護る森を育てるプロジェクトです。

紫草は飛鳥時代から日本を護ってきた色でありました。その心を添えて、大分県を震源とした地震が2022年1月に発生したことを受け、南海地震発生時の浸水被害が想定される別府湾近郊を含む、太平洋沿岸地域の防災に役立てて頂きたいと思っています。

書籍 | 『紫の種を蒔く』| 月虹舎文庫

¥1,000価格
  • 税込330円

    15,000円以上お求めの場合送料無料

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