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日本のアートディレクター、グラフィックデザイナーの草分け的存在であった岡秀行(1905‒1995)は、職能ゆえに木箱、紙包み、竹かご、藁のつとなどの自然素材を使った日本の伝統包装の美しいかたちに魅了され、全国各地で収集を行った。

次第に「包む」という行為自体に関心を持つようになり、そこに宿るものを日本風土が育んできた特有の「美意識」だと見てとるようになった。

 

岡秀行は、当時の最先端のデザイン手法・組織論を取り入れて、日本のデザイン業界の発展に寄与した人物でもあったが、高度経済成長のなか、科学技術や経済至上主義が、人間の幸せにとって必ずしも万能ではないことを予見。

生活の美意識を宿した日本の伝統パッケージには、失いかけた自然風土との共生を呼び覚ます力があると考えるようになっていた──。

 

岡秀行は伝統パッケージについて本を、自らのアートディレクションにより制作。海外でも大きな評判を呼び、本テーマの展覧会が各国を巡回、28ヵ国100箇所で開催された。

 

本書は、1972年毎日新聞社から刊行された『包』を底本とした、2011年開催「包む:日本の伝統パッケージ」展の図録(目黒区美術館、ビー・エヌ・エヌ新社刊)を書籍化、デザイン史家佐賀一郎(多摩美術大学)による「岡秀行論」を増補した新装再編集版である。

 

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目次

包装の原点 岡秀行








解説・資料編
岡秀行のデザイン 佐賀一郎
<包む>コレクションについて 佐川夕子
図版解説
岡秀行旧蔵<包む>コレクション目録

 

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『包 日本の伝統パッケージ、その原点とデザイン』

 

岡 秀行  (オカ ヒデユキ)  (著/文 | 編集)

1905年、福岡県柳川生まれ。本名春三郎。1923年9月、関東大震災の直後に上京し、川端玉章が主宰する川端画学校で洋画を学ぶ。

 

1935年、図案と写真撮影を行うオカ・スタジオを銀座に設立。アートディレクター・システムを導入したデザイン会社の草分けとなる。戦後は、グラフ雑誌、宣伝広告、カタログ、ポスターなどのデザインを広く手がけるほか、図案家のための職能団体の確立に尽力。1950年の日本宣伝美術会の設立に協力したほか、1952年には東京商業美術家協会を設立し初代委員長に就任。1962年地方17団体326名の図案家を結集した全国商業美術家連盟を設立して理事長に就任し、特に独立系の図案家の職能と地位の確立を目指した。併行してアートディレクター・システムに基礎づけられたデザインの普及・啓蒙を企図し、『宣伝デザイン―企画から印刷まで』(美術出版社、1956年)、『デザイン写真』(みずゑ別冊、1959年)、『カタログとポスター』(印刷出版研究所、1966年)などの著作を残す。また、二木和英との訳書として、インフォグラフィックやピクトグラムの技法を紹介した『絵画図表の見方・画き方』(ダイヤモンド社、1958年)を残した。教育活動にも力をふるい、1971年から日本デザイナー学院講師に着任、1985年から四代目校長、1993年から名誉学院長を務めた。
1959年、ニューヨーク近代美術館で開催される国際パッケージ展の出品物選定を請けおったことをきっかけに、日本の伝統的な「包む」造形に注目して収集を開始。1964年、理事長を務める全国商業美術家連盟の第一回展として「日本伝統パッケージ展」を日本橋白木屋で企画・開催。モダニズム、商業主義全盛の時代にあって異色の展覧会として注目を集める。1965年、同展の出品作品をとりまとめて刊行した『日本の伝統パッケージ』(美術出版社)は国際的な注目を集め、英語・ドイツ語・フランス語に訳されて各国で刊行。その後も終生のライフワークとして伝統パッケージと向きあいつづけ、1972年『包 TSUTSUMU―THE ORIGIN OF JAPANESE PACKAGE』を毎日新聞社から、1974年には『こころの造形―日本の伝統パッケージ』を美術出版社から刊行。また、1975年から翌年にかけて、ジャパン・ハウス・ギャラリー主催の「TSUTSUMU」展を監修。この展覧会はニューヨークを皮切りにカナダ、アメリカを巡回し、その後は国際交流基金の主催でさらに各国を巡回。28ヶ国・100回以上の開催を重ね、海外における日本の伝統デザインのイメージを決定づけた。
1988年、目黒区美術館での「日本の伝統パッケージ展」開催に協力し、所蔵する伝統パッケージコレクションを同美術館に寄贈。1995年9月26日、東京都中野区の中野総合病院にて90歳で逝去。2011年2月10日から5月12日には、目黒区美術館にて「包む:日本の伝統パッケージ」展が開催された。

 

目黒区美術館  (メグロクビジュツカン)  (著/文 | 編集)

東京都目黒区の美術館。1987年開館。日本の近現代美術の流れとその特徴を理解するための優れた作品を体系的に収集、欧米との関わりの中での独自の展開に焦点をあてている。明治以降、日本人が海外に学んで制作した作品、特に作家が自己のスタイルを模索する過程から生まれた新鮮な作品群や、戦後、国際展に出品され高い評価を得た作品群を中心に、目黒ゆかりの作家や同時代の新鮮な動きの紹介にも注力。また、制作のプロセスを示すものなど、周辺の資料も積極的に収集、作家と作品へのより深い関心に応えることを目指している。

 

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京都の老舗和菓子店や酒造も多く掲載されている、全国の美しいパッケージを集めた決定版です。

ただのデザイン書に終わらないのは、岡秀行氏が包装に使われた「資材」の精神性にまで考察が到達していること。

特に竹と藁という、日本人の暮らしに最も近い素材で包まれた魚や卵の姿は、パッケージデザインを越えた民俗学ともいえるほどです。

 

祖父母の時代は、まだ卵が高級品で、藁や籠に包んで大切に家に持ち帰ったと聞いたことがあります。

日本は、染織にも食にも、自然界に存在する菌や黴、酵母による発酵を活かし、取り入れてきました。

古来から良質な生糸の産地として知られる滋賀県高島市では今でも蔵酵母のみで酒つくりを行っている酒蔵があります。

沖縄では、黒麹を使って泡盛を仕込み、その泡盛を飲ませて琉球藍を建てます。

 

何でもプラスチックで包装してしまう今、食品衛生は向上したかも知れませんが、古くから大切にされてきた発酵の神秘には、衣食住の源が一つだった頃の大切な記憶が潜んでいます。

藁や籠にこそものを包むという行為の原点があり、暮らしの営みが立ち上がってくるのです。

書籍 | 『包 日本の伝統パッケージ、その原点とデザイン』

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